2023.02.07

勅使河原三郎、佐東利穂子「月に憑かれたピエロ」。シェーンベルクの原曲を聴いたことはなく、前情報が全くなかったものの、ドイツ語の歌詞を日本語で朗読する音声が挿入され、曲の世界観を理解しながら鑑賞することができた。佐東さんの声は質量が籠っていてシンプルな素描のように頭の中に言葉を残してくれると「告白の森」に続いて思う。

前半は原詩や原曲の再現のように二次元的な画のなかで物語が進行するようだったのが、後半に奥行きが現れてくる、照明の演出が巧み。郷愁を誘う第三部の中では、彼方と此方を分つ境界の光線越しに、見つめ合っていた彼方は消え去り、月の満ち欠けの周期を指でなぞるような主人公が残される。舞台のやや右上に吊るされた、硬質な金属の曲げられた板がゆっくりと旋回する、その影が時おり歪な三日月のように見える。舞台の左手側に真っ直ぐに立った小さな碑のような板とそれは同寸にも見える。ステージの明かりがだんだんと落ち、地上も月も見えなくなっても最後はただ一人、見えない何かを仰ぐように遠くを見つめる姿のまま幕が引かれる。

シェーンベルクの出自を聞けば殊更その故郷への思いに解釈を重ねられるけれど、それぞれの拠り所となる存在が得難く遠い人にとって、それは月に思いを馳せて取り憑かれてしまうような気持ちの遠さのようにも感じられる。